大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪家庭裁判所 昭和58年(少)1858号 決定

少年 R・T(昭四二・一〇・五生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

一  非行事実

司法警察員作成の昭和五八年二月九日付関係書類追送書及び同年二月二四日付追送致書記載の事実(共謀して昭和五八年一月二七日頃から同年一月二九日頃までの間一三回にわたり大阪市西成区内の道路上でひつたくり窃盗を行つたもの、被害現金合計四七万六五〇〇円ほか手提袋等九五点)のとおりであるから、ここにこれらを引用する。

二  適用法条

刑法二三五条、六〇条

三  処分の理由

少年に対する少年調査票、大阪少年鑑別所鑑別結果通知書を併せ考えると、少年の健全な育成を期するためにはその性格、これまでの行状、環境等に鑑み初等少年院に収容して指導訓練を施すのを相当とするので、少年法第二四条第一項第三号により主文のとおり決定する。

(裁判官 井上武次)

〔参考一〕 少年の家庭環境の調整に関する件

少年 R・T昭和四二年一〇月五日生

本籍 名古屋市中川区○○×丁目××番地

住居 大阪市西成区○○×丁目×番××号

上記少年は別添決定謄本(編略)のとおり、昭和五八年三月四日当庁において初等少年院送致決定を受け、現在播磨少年院収容中のものでありますが、少年院における矯正教育を円滑に進行させるためのみならず、少年の更生にとつて少年院における矯正教育に引き続き在宅処遇段階が重要な意味を持つことになると思料されますので、この在宅処遇が成功裡になされることを保障する条件を今から準備すべく、少年の家庭環境の調整に関し下記のとおりの措置を行なわれるよう、少年法二四条二項、少年審判規則三九条に則り要請いたします。

大阪保護観察所長殿

昭和五八年四月一八日

大阪家庭裁判所

裁判官 井上武次

第一行なわれるべき環境調整の措置

大阪保護観察所長は、少年の家庭環境の調整に関し特に次の措置を行なうこと。

一 父に対し、同人の健康、就労等父親自身の社会生活の再建を図る努力を行うよう指導するとともに、少年の自立を促す指導をさせること。

二 少年の住み込み就職のため社会資源の活用を図るなど、同人の社会復帰を準備するための調整をはかること。

第二上記措置を必要とする理由

少年の家庭環境は複雑であり、少年は家庭において基本的な依存欲求が満たされず、親の顔色をうかがい、不満を抑圧した生活を送つてきた。実父にひきとられた小学三年頃から親の金を持ち出し、親に叱かられては外泊するという行動が始まり、昭和五七年夏頃からは、長期家出をくり返しては、窃盗非行を犯すという経過をたどつた。特に、父親は、心身共に不健康で生活力を失つており、酒癖も悪く、ものごとに固執し、被害感にとらわれ感情の統制が困難であり、性格の偏倚が著しい。このような父親の態度は、少年を抑圧的、逃避的にさせ、少年の長期家出、再非行の重要な要因となつていた。これに対し、少年は自立への欲求はあるものの、社会性も未成熟で、実現するまでには至らなかつた。

以上のような経緯からみて、少年の仮退院において、容易に保護者のもとに帰住させることは問題の再発を招来するおそれが大であり、少年と保護者の間に適切な距離を保つことがのぞましいと考えられるので、少年のために適当な社会資源を活用して、自立の準備するとともに、保護者に対しては生活再建の努力を行わしめるよう指導することがのぞましいと思料されるものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例